民間会社員の副業自体を一律に禁じる法律はありませんが、就業規則違反や本業への支障があれば処分対象になり得ます。厚生労働省+1
副業禁止の会社で始めるなら、「隠す方法」ではなく、規則確認→内容整理→申請→記録の順で進めるのが現実的です。
本記事はニュース解説ではなく、厚生労働省の2025年3月版資料などを基にした、民間企業で働く会社員向けの常設ガイドです。公務員は制度が異なるため対象外とします。厚生労働省+1
副業禁止の会社で副業できる?法律と会社ルールの結論
結論は、「法律上ただちに違法ではないが、勤務先の規則を無視してよいわけではない」です。
厚生労働省は2018年1月にモデル就業規則を改定し、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という従来の規定を削除しました。
そのうえで、勤務時間外に他社の業務へ従事できることを示す副業・兼業の規定を設け、2020年9月にはガイドライン改定に合わせて記述を見直しています。ガイドライン自体も2022年7月に改定され、公式ページでは2025年3月31日改定版の解説パンフレットが公開されています。厚生労働省
ただし、ここで注意したいのは、厚生労働省のモデル就業規則が法律そのものではないことです。
モデル就業規則は企業が規則を整備する際のひな型であり、すべての会社が同じ内容を採用しなければならないものではありません。実際に自分へ適用されるのは、勤務先の就業規則、雇用契約、誓約書、秘密保持規程などです。厚生労働省+1
会社が副業を禁止・制限できる4つの事情
厚生労働省のモデル就業規則第68条では、会社が副業を禁止または制限できる事情として、次の4つを示しています。
- 副業によって本業の労務提供に支障が出る
- 企業秘密が漏えいする
- 会社の名誉や信用を損ない、信頼関係を壊す
- 競業によって会社の利益を害する
つまり、会社が確認しているのは「収入を得ること」だけではありません。
本業を予定どおり続けられるか、会社の情報や利益を守れるかが、判断の中心になります。厚生労働省+1
就業規則に「副業禁止」と書かれていても、あらゆる活動が同じ重さで扱われるとは限りません。
一方で、「勤務時間外は自由だから、無断で始めても問題ない」と決めつけることもできません。届出や許可を求める規定があるなら、まずその手続きを踏むことが、争いを避ける現実的な選択です。
「禁止」「許可制」「届出制」は意味が違う
就業規則を読むときは、副業という言葉だけを探すのではなく、手続きの種類まで確認してください。
- 禁止制:原則として認めず、例外の有無を個別に確認する
- 許可制:申請後、会社の承認を得てから開始する
- 届出制:内容を事前に届け出たうえで開始する
- 条件付き容認:業種、時間、契約形態などに制限がある
「申請書を出せば終わり」とは限りません。
上司の承認、人事部の審査、誓約書の提出、副業先との契約書の提示など、複数の手順が定められている会社もあります。
正社員が副業を始める前に確認する5つの手順
副業禁止の会社で最初にすることは、案件探しや販売ページの開設ではありません。
契約や仕入れを先に進めると、会社から認められなかったときに、断れない仕事や在庫だけが残ることがあります。次の順番で、一つずつ確認してみてください。
1.最新版の就業規則と雇用契約を確認する
最初に、社内ポータルや総務・人事窓口で、現在有効な就業規則を確認します。
以前に受け取った紙の規則が改定されていることもあるため、手元の資料だけで判断せず、改定日も見ておきましょう。
確認する項目は次のとおりです。
- 副業・兼業の定義
- 禁止制、許可制、届出制のどれか
- 申請期限と提出先
- 禁止される業種や契約形態
- 労働時間や報告頻度の条件
- 競業避止と秘密保持
- 会社名、肩書、設備の利用制限
- 内容変更時の再申請
- 違反した場合の懲戒規定
「副業・兼業」という章がなくても、服務規律、秘密保持、情報セキュリティー、懲戒の項目に関連規定が置かれていることがあります。
副業規定が見つからない場合は、「副業してもよいですか」と結論だけを尋ねるより、「副業・兼業に関する規則と手続きの確認方法を教えてください」と問い合わせると、必要な資料へたどり着きやすくなります。
2.副業の実態を1枚に整理する
会社へ相談する前に、予定している活動を具体的な言葉にします。
厚生労働省の届出様式例では、雇用か非雇用か、副業先の名称・所在地・事業内容、担当業務、契約期間、所定労働日、始業・終業時刻、時間外労働の見込みなどを記載する構成になっています。厚生労働省+1
少なくとも、次の内容は整理しておきましょう。
- 何をして報酬を得るのか
- 雇用、業務委託、個人販売のどれに当たるか
- 取引先や販売場所はどこか
- いつ、月に何時間ほど活動するか
- 本業と同じ顧客や市場に関わるか
- 会社の情報、端末、設備、人脈を使うか
- 会社名や肩書を公開するか
- 収入発生前の準備だけか、すでに契約予定があるか
たとえば「ハンドメイド販売をしたい」だけでは、会社側は活動の範囲を判断できません。
「自宅で制作した生活雑貨を休日にオンライン販売する。週の作業予定は6時間以内で、本業の顧客・設備・データ・会社名は使用しない」と整理すると、確認すべき点が見えやすくなります。
私はハンドメイド販売を趣味から副業へ育ててきましたが、活動を自分の中だけで「趣味の延長」と呼んでいると、作業量や責任の大きさを見落としやすいと感じます。
会社への説明では、呼び名よりも、誰に、何を、いつ、どの程度提供するのかを示すことが大切です。
3.契約や販売開始の前に申請する
許可制や事前届出制の場合は、原則として契約締結や販売開始の前に手続きをします。
「売上が出てから申請しよう」と考えていても、商品の掲載、予約受付、広告の掲出、企業との契約締結などを開始時点とみなす会社もあります。
申請時期が曖昧なら、次の行動を始める前に人事・総務へ確認しましょう。
- 雇用契約や業務委託契約を結ぶ
- 商品を継続販売するために仕入れる
- 有料サービスの予約を受け付ける
- 広告やアフィリエイトを掲載する
- 報酬を条件とする企業案件を引き受ける
申請書には、会社側の懸念を減らす管理方法も添えます。
「本業の勤務時間中は対応しない」「会社端末を使わない」「本業と競合する依頼は受けない」「作業時間が増えた場合は再申請する」といった内容です。
4.承認条件と回答を記録に残す
口頭で「たぶん大丈夫」と言われただけでは、担当者の異動や上司の交代後に認識が変わる可能性があります。
申請書の控え、承認メール、許可期間、条件、更新時期を保存しておきましょう。
許可を得た後も、当初の説明から次のような変更が生じた場合は、再申請が必要か確認します。
- 作業時間や曜日が大きく増える
- 新しい取引先と契約する
- 個人販売から法人との業務委託へ変わる
- 本業に近い業務を受ける
- 会社名や経歴をプロフィールへ掲載する
- 従業員を雇うなど活動規模が変わる
許可は「副業全般への白紙委任」ではなく、申請時に示した内容を前提とする場合があります。
5.売上だけでなく時間と変更点も記録する
副業開始後は、収入と経費に加え、作業時間も記録します。
厚生労働省は、雇用される形で副業をする場合、本業と副業先の労働時間を原則として通算して管理する必要があると案内しています。副業先での所定労働時間や残業見込み、実労働時間を報告する手続きも、事前確認事項に含まれます。厚生労働省+1
業務委託や個人販売では、雇用される副業と同じ方法で労働基準法上の時間を通算するとは限りません。
それでも、睡眠不足や疲労によって本業へ支障が出れば、会社が副業を制限する理由になり得ます。法律上の区分とは別に、自分の生活時間を管理する必要があります。

副業申請書には何を書く?会社が判断しやすい説明
副業申請は、熱意を強く訴える書類というより、会社がリスクを確認するための書類です。
「将来の夢です」「生活のために必要です」といった事情だけでは、本業への影響や競業の有無を判断できません。
会社が見ている4つの軸に沿って、事実を短く整理しましょう。
判断軸 説明しやすい状態 懸念を持たれやすい状態
本業への支障 休日中心で時間上限が明確 深夜作業が多く、終了時刻が不明
競業性 顧客・商品・市場が本業と重ならない 同業他社や本業の顧客と取引する
情報管理 私物端末と個人アカウントで管理 会社端末、資料、人脈を利用する
信用への影響 会社名や肩書を出さない 勤務先の信用を販売促進に使う
この表の左側に当てはまれば許可される、右側なら拒否される、という単純な基準ではありません。
ただし、何が未整理なのかを見つけるチェック表としては使えます。
ハンドメイド販売の説明例
ハンドメイド販売の場合は、次のように具体化できます。
説明しやすい例
自宅で制作した布小物をオンライン販売します。制作・発送は土日の日中に行い、月の作業予定は20時間以内です。本業の取引先、会社設備、勤務先名、業務上知り得た情報は使用しません。
懸念を持たれやすい例
空いた時間に販売します。作業時間や注文数は未定です。本業で知り合った人にも紹介する可能性があります。
後者では、勤務中に対応するのか、顧客が重なるのか、作業量がどこまで増えるのかが分かりません。
申請を整えるとは、実態をよく見せることではなく、曖昧な部分を減らし、守れる条件だけを書くことです。
書かないほうがよい表現
副業申請書では、次のような表現は避けたほうがよいでしょう。
- 絶対に本業へ影響しません
- 会社には一切迷惑をかけません
- 収益はほとんど出ない予定です
- 趣味なので副業には当たりません
- 匿名なので勤務先に分かりません
将来の作業量や収益を正確に予測することは難しく、「絶対に影響しない」とは言い切れません。
「月20時間を上限とし、超える見込みになった時点で相談する」のように、確認可能な条件へ置き換えるほうが誠実です。
裁判例から分かる「許可されにくい副業」の判断軸
副業をめぐる裁判では、無許可だったという形式だけでなく、副業の回数、時間帯、本業への具体的影響、競業性などが検討されています。
ただし、裁判例はそれぞれの事情に基づく判断です。自分の副業にも同じ結論が当てはまるとは限りません。
本業への支障が認められず、解雇が無効とされた例
東京都私立大学教授事件は、東京地方裁判所が2008年12月5日に判断した事案です。
教授が無許可で語学学校講師などを行い、講義を休講したことを理由に懲戒解雇されました。しかし、副業は夜間や休日に行われ、本業への支障が認められなかったことなどから、解雇は無効とされました。厚生労働省+1
十和田運輸事件は、東京地方裁判所が2001年6月5日に判断した事案です。
運送会社の運転手が年1、2回ほど貨物運送のアルバイトをしたケースで、会社業務への具体的な支障や、信頼関係を壊すほどの事情は認められず、解雇は無効とされました。厚生労働省+1
この2件から読み取れるのは、回数が少ない、勤務時間外である、本業への具体的な影響が確認できない、といった事情が判断材料になることです。
長時間の深夜就労で、解雇が有効とされた例
小川建設事件は、東京地方裁判所が1982年11月19日に決定した事案です。
労働者は、毎日6時間にわたって深夜まで別の仕事に就いていました。副業が余暇利用の範囲を超え、本業へ誠実に労務を提供することに支障を来す可能性が高いとして、解雇が有効と判断されています。厚生労働省+1
「実際に遅刻していないから問題ない」とは限りません。
働き方や時間帯から見て、今後本業へ支障を生じる可能性が高いと判断されるケースもあることが分かります。
競合他社への関与が問題になった例
橋元運輸事件は、名古屋地方裁判所が1972年4月28日に判断した事案です。
管理職にある従業員が、直接経営へ関与していなかったものの、競業他社の取締役に就任していました。この事情から、懲戒解雇事由に当たると判断されています。厚生労働省
副業の作業時間が短くても、本業と競合する会社の経営や重要業務に関われば、会社の利益を害する懸念は大きくなります。
得意分野を生かしたいと思うほど、本業と近い仕事を選びやすくなりますが、業務内容だけでなく、顧客、販売地域、価格情報、仕入れ先が重ならないかも確認が必要です。
会社側の不許可にも合理的な理由が求められる
マンナ運輸事件は、京都地方裁判所が2012年7月13日に判断した事案です。
運送会社が準社員から提出されたアルバイト許可申請を4度にわたり不許可としましたが、後半2回の不許可には理由がないとして、不法行為に基づく損害賠償請求の一部が認められました。厚生労働省+1
会社に規則があれば、どのような理由でも拒否できるとは限らないことを示す事例です。
ただし、申請を拒否された直後に規則を無視して始めるのではなく、理由と根拠条項を確認し、仕事内容や時間を変更できないか話し合うほうが現実的です。

許可後に外せない労働時間と税金の最低限
この記事の中心は会社への確認手順ですが、許可が出た後に見落としやすい点として、労働時間と税務があります。
細かな税額計算や所得区分は個別事情によって変わるため、ここでは最低限の境界だけを整理します。
別の会社に雇用される副業は労働時間を正確に伝える
本業とは別の会社でアルバイトやパートとして雇用される場合、労働基準法第38条により、異なる使用者のもとで働く時間も通算対象になるのが原則です。
厚生労働省は、契約期間、所定労働日、始業・終業時刻、残業見込み、実労働時間の報告方法などを確認事項として挙げています。厚生労働省+2厚生労働省+2
割増賃金をどちらの会社が負担するかなど、実務上の計算は契約の順序や実際の労働時間によって複雑になります。
会社員側が自己判断で整理するより、本業と副業先の双方へ勤務予定を正確に申告することが大切です。
年間20万円は「売上」ではなく所得に関する基準
国税庁の「No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人」は、給与を1か所から受け、その給与が源泉徴収の対象となる人について、給与・退職所得以外の所得合計が20万円を超える場合、原則として確定申告が必要と案内しています。
2か所以上から給与を受け取る場合は、年末調整されなかった給与収入などを含め、別の条件で判定します。国税庁の当該ページは「令和7年4月1日現在法令等」と明記されています。国税庁
ハンドメイド販売などの所得は、単純な売上額ではなく、一般に次のように考えます。
所得=収入-必要経費
ただし、支出したものがすべて経費になるわけではありません。
私生活と共用する通信費や機器代などは、副業に使った部分を合理的に分ける必要があります。所得区分や経費の範囲に迷う場合は、税務署や税理士へ個別に確認してください。
20万円以下でも住民税の確認は必要
所得税の確定申告が不要でも、住民税の申告まで不要になるとは限りません。
たとえば名古屋市は、給与所得以外の所得が20万円以下で所得税の確定申告をしない給与所得者についても、市民税・県民税には同様の申告省略範囲がないため、原則として申告が必要と案内しています。所得税の確定申告を行う場合は、別途の住民税申告は不要とされています。名古屋市公式サイト
提出方法や申告不要となる条件は、所得状況や自治体の案内によって異なる可能性があります。
「20万円以下だから何も
